西郷隆盛が愛した「豚」と豪快な食のエピソード

西郷隆盛画像

幕末から明治維新にかけて、日本の歴史を大きく動かした偉人、西郷隆盛(さいごう たかもり)。「敬天愛人」の思想を掲げ、その清廉潔白な人柄と、時として豪快な行動力で、多くの人々を魅了してきました。教科書に載るような彼の偉業は広く知られていますが、一人の人間としての西郷隆盛が何を好み、どのような食生活を送っていたかについては、意外と知られていません。

本記事では、西郷隆盛の大好物に焦点を当て、その食の好みから垣間見える彼の人間味あふれるエピソードや、知られざる人物像を深掘りしていきます。彼の愛した食べ物は、その豪放磊落な性格や、故郷・薩摩への深い愛情を物語っているのです。

西郷隆盛人物像

2. 西郷隆盛の人物像と偉業:巨星の光と影

西郷隆盛は、天保10年(1838年)に薩摩藩の下級武士の家に生まれました1。その生涯は、波乱に満ちたものでした。藩主・島津斉彬に見いだされ、幕府との交渉や藩政改革に尽力。しかし、斉彬の死後、二度の遠島(奄美大島、沖永良部島)を経験します。この苦難の時期が、彼の思想を深め、「敬天愛人」の精神を確立する土台となりました。

帰藩後、彼は薩摩藩の指導者として活躍し、薩長同盟の締結、鳥羽・伏見の戦いでの勝利、そして江戸城無血開城を実現させ、明治維新最大の功労者の一人となります。彼の特徴は、その巨躯と豪放な性格です。子どもの頃から体が大きく、腕っぷしも強かったと伝えられています2。また、貧しい武士出身でありながら、身分や貧富に関係なく、はっきりと意見を述べる男気あふれる人柄で、若い武士や農民から絶大な人気を誇りました。

彼の晩年は、新政府の要職に就きながらも、その急進的な改革に異を唱え、故郷・鹿児島に戻ります。そして、士族の不満を背景に起こった西南戦争で、新政府軍と戦い、最期を遂げました。

3. 意外な大好物!西郷隆盛と「豚」の深い関係

さて、そんな歴史上の巨星・西郷隆盛が最も愛した食べ物は何だったのでしょうか。それは、彼の故郷・薩摩の特産品である豚肉、特に黒豚です。

黒豚とんこつ

西郷隆盛は、豚肉料理をこよなく愛し、特に薩摩の郷土料理である「とんこつ」が大好物だったという説が有力です。

とんこつ: 骨付きの豚肉を、焼酎や味噌、黒砂糖などで長時間煮込んだ料理。薩摩の伝統的な家庭料理であり、肉が骨からほろりと外れるほど柔らかく、濃厚な味わいが特徴です。

西郷隆盛が豚肉を好んだ背景には、当時の薩摩藩の食文化が深く関わっています。薩摩藩では、古くから豚肉を食べる習慣があり、特に黒豚は、その肉質の良さから重宝されていました。西郷隆盛は、この薩摩の味を心から愛し、生涯を通じて豚肉料理を好んで食したと言われています。彼の豪快な体躯を支えたのは、この滋養に富んだ黒豚料理だったのかもしれません。

また、豚肉料理以外にも、西郷隆盛が好んだとされる食べ物があります。それは、東京・深川の老舗「船橋屋」のくず餅です。江戸滞在中に、この素朴な和菓子を好んで食していたという記録が残っています。豪快な肉料理を好む一方で、このような素朴な甘味も愛していたという事実は、彼の人間的な幅の広さを示しています。

4. 食事から垣間見える人間味あふれるエピソード

西郷隆盛の食にまつわるエピソードは、彼の温かい人柄や豪放磊落な性格をよく表しています。

4.1. 愛犬家としての西郷:鰻と犬の物語

ツンと鰻

西郷隆盛は、大の愛犬家としても知られています。彼は、何匹もの犬を飼い、特に「ツン」という名の犬は有名です。彼の愛犬への愛情を示すエピソードとして、鰻にまつわる話があります。

西郷隆盛は、鰻が大好物でした。ある時、鰻丼を注文したにもかかわらず、彼はそれを自分で食べずに、愛犬に与えてしまったというのです。また、食料事情が悪い時でも、自分の食べ物を愛犬に分け与えるなど、常に愛犬のことを大切にしていました。彼にとって、食事とは単に空腹を満たす行為ではなく、愛する存在と分かち合う行為でもあったことが伺えます。

4.2. 妻への愛情と意外な特技:味噌造りの名人

みそづくり

西郷隆盛は、家庭人としても非常に優れていました。彼は、奥さんが作った食事に対して、いつも感謝の言葉を述べていたと言います。どんな料理であっても、妻の手料理を褒め、愛情を示していたのです。これは、彼の他者への敬意と温かい心の表れでしょう。

さらに驚くべきことに、西郷隆盛には味噌造りという意外な特技がありました9。彼が自ら作った味噌は、非常に美味しかったと伝えられています。歴史を動かす大人物が、家庭で味噌を仕込むという、そのギャップが彼の人間的な魅力を一層引き立てています。

4.3. 豪快な作法破り:スープ皿を手に

スープ片手に

西郷隆盛の豪快な性格を示すエピソードとして、晩餐会での出来事があります10。

明治新政府の要人として、西欧式の晩餐会に出席した際、彼はスープ皿に盛られたスープを、作法を知らないと言って、皿を手に持って飲み干したというのです。この行動は、当時の西洋化を急ぐ政府高官たちにとっては驚きだったでしょう。しかし、西郷隆盛にとっては、形式的な作法よりも、食べ物を美味しくいただくこと、そして自分に正直であることが重要だったのです。このエピソードは、彼の飾らない、率直な人柄を象徴しています。

5. 健康への意識:日本初の「ダイエット」?

西郷隆盛は、その巨躯ゆえに、健康に気を遣う必要がありました。彼は、日本で初めてダイエットをした成人男性とも言われています。

彼の食生活は、基本的に質素でした。例えば、盟友である大久保利通と面会した際、大久保が漬物とコーヒーを食していたという記録がありますが、西郷自身も、質素な食事を好む傾向がありました。彼のダイエットは、健康を維持し、激動の時代を生き抜くための自己管理の一環だったと言えるでしょう。

質素な食事

6. まとめ:西郷隆盛の食は「敬天愛人」の精神を映す

西郷隆盛が愛した食べ物、特に故郷の黒豚料理は、彼の豪快さと故郷への愛を象徴しています。また、愛犬に鰻を分け与える優しさ、妻の手料理を褒める愛情深さ、そして晩餐会での豪快な振る舞いは、彼の人間味あふれる魅力を際立たせています。

彼の食生活は、彼の思想である「敬天愛人」の精神を映し出しているかのようです。天を敬い、人を愛する。その精神は、彼が口にする食べ物、そして食にまつわる全てのエピソードに息づいています。

現代に生きる私たちも、西郷隆盛のように、食を通じて人生を豊かにするヒントを得られるのではないでしょうか。鹿児島を訪れた際には、ぜひ西郷隆盛が愛した黒豚の「とんこつ」を味わってみてください。